Appleに見るブランディング

先月、企業のブランド価値をランキングするインターブランド社が、「Best Japan Brands 2020」を発表しました。
トップ10の企業(ブランド)はこの通り。

 

第1位:トヨタ

第2位:ホンダ

第3位:日産

第4位:キヤノン

第5位:ソニー

第6位:MUFG

第7位:パナソニック

第8位:ユニクロ

第9位:任天堂

第10位:スバル

and more

 

自動車産業と電機大手が占めています。トヨタは、なんと12年連続でベストジャパンブランドのトップを維持しているそうです。そろそろ日本も、あっという間にグローバル版ブランドランキングの1位をコカ・コーラ社から奪取したApple社のような企業やブランドが出現して社会を活気づかせて欲しいなと思う今日この頃です。

 

Appleにみるブランド構築の軌跡

その前に、読者の方は「ブランド」「ブランディング」をどう解釈しているでしょうか。

「商品やサービスにかっこいい名前を付けること」とか、
「ロゴをデザインすること」だけではありません。ましてや、
「ブランド品を身に着けること」ではないのでご注意を…

 

「ブランド」とは?

結論からいうと、ブランドとはあなたの商品やサービス、もしくはあなた自身の「特徴」・「同類/同業他者との違い」・「量」・「質」・「信用」・「約束」のしるしです。

 

ネーミングやロゴをデザインすることだけではないと上述しましたが、ロゴを作ればブランドの完成なのではなく、ロゴが付いたあなたの商品、サービスが正しく世間に知られ、好意的・長期的な関係を得られるよう育てていくことが大切です。
つまりブランディングとはコミュニケーションなのです。

今回は2019年のグローバルブランドランキング1位であるApple社を例に説明します。

 

Appleのブランド成長ステップ:「特徴」と「他社との違い」を確立

Apple社の創業は1976年。詳細は割愛しますがPC市場の黎明期に意欲的な開発を続け、アメリカではベンチマークされる企業の一つでしたが、まだ日本では一般的ではありませんでした。その名を日本中に轟かせたのは1998年、従来のパーソナルコンピューターの概念を覆したデザインのiMacが発表されたあたりではないでしょうか。そのインパクトのある見た目で、それまで日本では一部のAppleユーザーやクリエイターのためのパソコンメーカーというポジションから、広く知られるようになります。iMacはその独創的な「特徴」で「競合他ブランドとの違い」を確立しています。

 

Appleのブランド成長ステップ:「量」を上げる

とはいえ、当時企業で使用する一般的なOSといえばMicrosoftの土壇場でMac派はまだ少数派。そこにAppleは「私には関係ない」と思っていた人でも手が出てしまうコミュニケーションツール『iPhone』を2007年に発表します。それまで熱狂的なファンに支持されていたAppleブランドを、より広い層にApple製品を使ってもらい、慣れ親しんでもらうことに成功したのです。つまり、ここでAppleはmass(大衆)に向けてブランドの認知”量”を一気に上げていきました。
これにより、携帯電話市場が一転します。メディアもこぞって「業界のゲームチェンジャー(a game changer for the industry)」と評したほどです。

ちなみにこの年、AppleがPC市場からより広いエレクトロニクス市場にシフトしたことを表明するかのように、社名を "Apple Computer, Inc." から "Apple Inc." に変更しています。企業の転換期によくある商号変更を、当時のCEO、スティーブ・ジョブズの高いプレゼン能力でドラマチックにリブランディングしたのが印象的です。

 

Appleのブランド成長ステップ:「質」を守り「信用」を得る

2008年にAppleは「App Store」の展開を始めました。App Storeでは自社製品だけでなく、サードパーティのアプリも販売していますが、App Storeで販売するためには厳しい審査があります。Appleが審査をする理由はアプリの品質を守るためです。厳格なAppleフィルターを通して、見やすいユーザーインターフェースであることや、バグがないことなどが厳しくチェックされており、結果的にAppleブランドとしての「信用」を得ることに繋がっています。

Appleが審査をする理由
https://developer.apple.com/jp/app-store/review/

 

Appleのブランド成長ステップ:「約束」をする

Appleは以前、iPhoneの旧モデルで意図的な速度制限があったこと、その事実を開示しなかったことについて謝罪したことがあります。原因はバッテリーの劣化による諸問題を回避するためという理由で誤解があったとはいえ、多くのiPhoneユーザーを失望させました。

ブランドにとって「約束」とは何でしょうか。

Appleは、自社製品に高い耐久性があり競合他社のデバイスより長く価値を保てると自負しています。その「特徴」がユーザーにも浸透していたからこそ、「iPhoneだから快適な体験ができる」と期待または信頼して購入・使用していたユーザーが、このバッテリー問題に直面した時、Appleブランドへの信頼は下がってしまうのです。これをきっかけに他社の製品に買い替えてしまう可能性も大いにあります。

この時Appleは、ユーザーの懸念に対処し、信頼を回復するため以下の対策をとっています:

  • バッテリー交換費用の減額と補償対象の拡大

  • バッテリー状態をチェックする機能を追加したiOSアップデートを配信

  • ユーザー体験をさらに良いものにするための改善と強化についての取り組みを宣言。

3つ目はまさに「約束」ですね。
ブランドが大きくなればなるほど(そのブランドを認知する人の「量」が増えれば増えるほど)、その「質」を維持することの難しさや責任の重大性に直面します。

現在、AppleではiPhoneのバッテリーについてユーザーに理解を深めてもらうための説明ページを公式サイト上に設けています。このような対応も、ブランドの価値を維持・向上させるために必要なコミュニケーションの一つです。

iPhone のバッテリーとパフォーマンス
https://support.apple.com/ja-jp/HT208387

 

Appleから学べること

通常、ブランドのアイデンティティはその企業のビジョンやミッションにリンクしていますが、Appleはビジョンやミッションを明示していません。スティーブ・ジョブズというカリスマ経営者が発信するメッセージが強烈だったこともあり、「Think Different.」をはじめとするインパクトのあるコトバの数々が、都度その時のプロダクトを通じてユーザーに共感してもらうことに成功しています。

そして何より他の追随を許さないデザインも、Apple製品の特徴を表しています。それらがブランドの「質」として世の中に認められ、共感・支持してくれる人の「量」が増え、「信用」度が強まる。ブランド力がさらに強固になっていくわけです。そしてブランドを作る人、背負う人、体現する人やその商品は、買い手または利用者がそのブランドの名前やロゴから想起するイメージや、そこから期待する「特徴」や「質」を維持し続けるという「約束」を、日頃のコミュニケーションを通じて行い続けていくことが重要です。

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